いつも、芝居の後、ファンが楽屋に来て商細蕊と話している間、程鳳台は側に座ってお茶を飲み、新聞を読み、タバコを吸って仕事のことを考えていた。程鳳台がそばにいれば、商細蕊の心は落ち着き、何を言う必要もなかった。しかし2日連続で姿を見せないとたちまち機嫌が悪くなった。
それで、程鳳台は週5日3時間楽屋に来て座っていた。商細蕊が化粧を落とし、ファンが夜食をご馳走すると言って、出かける準備ができると、程鳳台は新聞をコーヒーテーブルの下にしまって、家に帰って眠った。
ある日輸送中の程鳳台の荷が襲われ、雇人が2人殺された。程鳳台は現状の把握と後始末に忙殺された。
数日ぶりに商細蕊の楽屋へ行き、疲れた顔で商細蕊を暗い路地に呼び出した。商細蕊が銀耳湯の入った碗を持っているのを見て「食べてもいいか?空腹で死にそうだ」と言った。
商細蕊はこの甘いスープが大好きだったが、二旦那のほうが更に好きだった。本当に空腹そうだったので、碗を程鳳台に渡した。程鳳台は何口かで全部食べてしまい、口を拭くと言った。「商老板、ちょっと大変なことになって、数日君と遊びに来られそうにない」
商細蕊はたちまち心が冷えて、不機嫌になり、甘いスープを譲ったことを後悔した。「大変なことって?」
癇癪を起こしそうだと感じて、程鳳台はわざと軽く笑って言った。「言ってもわからないだろう。仕事のことだから」
「言わなかったら、私がわからないってどうして分かるの?」
「絶対わからない。私だって分かってないんだからな。君は芝居をしててくれ。数日で私も仕事を終える」
「数日って何日?」
「長くはかからない」
「数字を言ってよ!」
「4、5日、長くても7、8日だ。もしかしたら街を出るかもしれない」
「いったい何日なの!」
「1週間あれば必ず終わる」
「それじゃ私の芝居は見られないんだ!」
商細蕊の声は最初から最後まで冷たかった。程鳳台は、これは商売よりも大変な問題だとうっすらと感じていた。
この問題は最初からそこにあり、今も育っていた。そのうち枝葉を伸ばし、蜘蛛の巣のように広がるだろう。
程鳳台は微笑を浮かべ、あらゆる手で商細蕊の機嫌を取り、そのふくれっ面をからかったが、商細蕊はその手を振り払った。
「なぜそんなに物分かりが悪いんだ!そこまでするか?仕事で数日来られないと言っているだろう」
「毎日私の芝居を覗きに来るぐらい、どれだけ時間がかかるって言うんだ。小周子との芝居を見にくると言ったくせに!仕事が大変だなんて嘘をついて!」
程鳳台は商細蕊を見つめ、その目の中に、鋭い、怒りに満ちた残酷な光を見た。事がいざ自身の身に降りかかってみると、一瞬にして多くのことが理解できた。平陽でのこと、蒋梦萍のこと、商細蕊の狂気の伝説。
程鳳台は商細蕊が突然狂ったとは思わなかった。今までずっと彼に対して従順すぎて、少しずつ慣れていき、少しずつ進んでいったのだ。心の中で結論に達し、程鳳台は背を向けて歩き出した。途中でまだ手に碗を持っていることに気づき、地面に投げた。暗い夜の中に澄んだ音が響き、碗はばらばらに割れた。
商細蕊は程鳳台が癇癪を起こす勇気を持っているとは思っていなかった。彼の背中を見つめて、殴り殺してやりたいと思った。
0 件のコメント:
コメントを投稿