2023年4月18日火曜日

131章-7

 雪がひどくなってきたので、范漣と程美心は、程鳳台の列車が出発するのを待たずに家に帰ることにし、それぞれの車で、前後に連なって出発した。


二人が去った後も、程鳳台は汽車に乗り込まず、雪の中に立って何かを待っていた。何を待っているのか?それを自分に告げる勇気はなかった。あの指輪のせいか、それとも商細蕊の最後の力強い握手のせいか、程鳳台は浮かんでくる妄想を止めることができなかった。


范漣は自分で車を運転していた。雪がひどくなって、ワイパーがザワザワとフロントガラスを擦った。屋台の商人たちは、この思いがけない雪に、一斉に屋台を畳んで家に帰ってしまったため、空っぽで白い街が現れ、とても清浄な感じがした。


路面が滑りやすいと思い、ゆっくりと車を進めていると、正面からマントを着てフードを翻し雪の中を人が走って来るのが見えた。顔には芝居の化粧をしているのがぼんやりと分かった。芝居の化粧をしていたら、誰なのかはっきりとは分からない。しかし、ほかに誰がいるというのか。


范漣は彼を目で追い、彼が車とは反対の方向、鉄道の駅に向かって走り去って行くのを見た。范漣は顔に微笑みが浮かぶのを我慢できなかった。


その人影は、後ろの程美心の車の窓を擦って行った。程美心は気づかなかったが、彼女の護衛の李班長が気づいて叫んだ。「あ、商老板!」美心は急に振り向いた。「誰ですって?」李班長は笑って「今走って行ったのは商老板じゃないですか?」


程美心の車は急ブレーキを踏んだ。


雪はますます強くなり、汽車は汽笛を鳴らした。葛さんが伝言に来て「二旦那、もう乗ってください。二奶奶が待ってます」と言った。


程鳳台は懐中時計を開いて時間を見ると、イライラとまたすぐに閉じた。彼は言った。「あと少し待つ」


あと少し、程鳳台は思った。あと5分待とう。


懐中時計の長針がそっと動き、1分が過ぎた。


程美心はミンクのコートにしっかりとくるまって、衛兵に護られて車を降りた。ハイヒールの靴で踏み出すと、雪に銃痕のような穴があいた。彼女には、何年も待っていたことがあり、今回去る前に、それをする決心を固めたのだった。


汽笛が再び鳴り、プラットフォームの見送りの親戚や友人たちはきれいにいなくなった。乗務員が旗を振り、叫んだ。「発車3分前です!ホームのお客様はできるだけ早くお席におつきください!」葛さんは焦って足踏みしたが、それ以上急かさなかった。



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