商細蕊は庭園を半時間以上探ったあと、手に伏せた茶杯を持って戻って来た。中には一匹の秋後のコオロギが、老いた手脚で力なく鳴いていた。彼は顔を拭いてベッドに上がり、程鳳台の耳元に茶杯を置くと、自分も枕のそばにうつ伏せになって面白そうにコオロギの鳴き声を聞いた。
二奶奶は思った。「コオロギで遊んでる。まだ子供ね!」知らないうちに声が柔らかくなった。「二旦那の邪魔をしないで」
商細蕊は言った。「目を覚ましたら、ちょうどいいのでは?」
二奶奶は言葉がなかった。
商細蕊は程鳳台がコオロギを欲しがっていたのをずっと覚えていた。まだ彼にコオロギ一匹の借りがあった。残念ながらこのコオロギはよくない。程鳳台の目が覚めたら、もっといいのをあげよう。だが、程鳳台はいつになったら目を覚ますのか?
方医師ははっきり言わないが、商細蕊と二奶奶には分かった。この傷が長引くほど、程鳳台が目を醒ます確率は低くなる。
コオロギの鳴き声を聞いて、商細蕊の目は赤くなった。茶杯の底を指で叩いてコオロギをからかうたびに、ゆっくりと涙がたまり、目にいっぱいになって震え、瞬きをしたらすぐにこぼれ落ちそうだった。二奶奶はそれを見てどうしようもなく辛い気持ちになった。今に至るまで、自分たち二人が同じ悲しみを抱えているとは思いもしなかったのだ。
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