2023年4月28日金曜日

104章

 二人の厚顔無恥な男たちは、いつものように昼間口喧嘩をしたが、夜には十分食べて飲んで帰って来た。酒を飲んだので、二人は居間のソファに座って、酔い醒ましのお茶を一杯飲んだ。


程鳳台はいつも通り鳳乙と遊ぼうと抱き上げて見ると、まだ頭の大きなコブが消えていない。程鳳台は心が痛み、手のひらを当ててそっと押さえた。そして片手で子どもを抱き、片手で商細蕊の肩を抱き寄せて、この上なく楽しそうだった。


商細蕊はいつものように警告した。「今後私に怒鳴ったら殺してやる」。程鳳台はいつものように言い返した。「君がちゃんとしてれば、私がどうでもいいことで怒鳴ったりするか?」商細蕊はその場で袖をまくり、「どうせ私には人の心がない。このガキをぶち殺してやる」。程鳳台は子どもを彼の目の前に差し出した。「やれよ!見ててやる」


商細蕊は手を上げるふりをし、程鳳台はすぐに子どもを抱きしめて、いたずらっぽく笑って顔を差し出した。「やっぱり父親のほうを殴ってやる」商細蕊は上げた手を少し止めると、程鳳台の口をそっと叩いた。程鳳台は身を乗り出して、彼の唇にキスをした。


この日は本当に気分のいい日で、商細蕊はベッドの中で考えた。二十年の幸せを全部合わせても、この数ヶ月の喜びには及ばない。有名になって、愛する人がいて、たくさんのお金が使え、好きなように外食する。この人生に他の願いはなかった。あとは鳳乙が早く大人になって嫁に行って消え失せて、程鳳台の愛を占領しなくなればいい。それと、程鳳台が親族を徹底的に切って、邪魔されなくなるといい。たとえばこの夜、明け方まで寝ていると急に電話が鳴り、程美心が難癖をつけてきた。程鳳台は電話を聞いて、急いで顔を洗って服を着ると、ベッドの端に座って、口を商細蕊の耳にくっつけて言った。「商老板、姉さんが私に来て欲しいんだって。かなり急いでる」商細蕊は寝ぼけていて目も開かない。


彼は今さっき夢を見ていた。芝居で歌を歌っていて、しばらく歌っても喝采がない。こっそり客席を見ると、みんな商細蕊の頭に目が釘付けになっている。なんと雪之丞がくれた青い蝶が生き返って、彼の頭の上から、羽を広げて軽やかに灯りに向かって飛んでいく。彼は猿が桃を取ろうとするように、舞台の上で跳び上がったが、蝶に手が届かない。そこで目が醒めた。


商細蕊の手には蝶を捕まえる勢いが残っていて、程鳳台を撫で、五本の指を揃えて彼のシャツの襟の中に挿し入れた。程鳳台は彼の手を取って、自分の手の中に握った。程鳳台の手は湿って冷たかった。


「行ってくるよ」と程鳳台は言った。商細蕊は鼻を鳴らした。電話での程美心の話はあまりよいものではなかった。程鳳台は不安になればなるほど、目の前の光景に後ろ髪をひかれる思いがした。商細蕊は薄暗い灯の中で静かに眠っていて、とてもおとなしい。程鳳台は彼の頭を撫でて、出て行った。


商細蕊は程鳳台がドアにぶつかるのを聞いた。それからしばらくして、車が動き出す音がして、ふたたび静寂が戻った。商細蕊は薄目を開けて寝返りを打ち、心の中で美心を憎んだ。彼はもう眠れなかったが、まだ蝶を捕まえていなかった。


この夜、北平城全体が、美しい夢を全部見ることができなかった。空が明るくなる頃、西南の角で突然砲火が上がり、戦場よりも激しい爆発が起きた。商細蕊は寝返りを打って起き上がり、警戒して窓の外を見た。鳳乙は大泣きし、乳母は鳳乙を抱きしめ、そして趙さんも小来も、男女の別も服の乱れも顧みず、みんな彼の寝室に駆け込んで、命令を待っているかのように彼をじっと見ていた。


商細蕊は窓の外をしばらく見ていて、平陽や張大帅、曹司令官のことを思い出した。彼はこれを見たことがあった。大砲が鳴って、どんなに厚い城壁にさえ大きな穴があき、人は灰になる。


商細蕊はゆっくりと振り向いて、呆然として言った。「戦争だ」




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