商細蕊の歌の師の復帰舞台に招かれた程鳳台は、だいぶ遅れて慌ててやって来た。商細蕊はボックス席で钮白文と喋っていて怒っている様子はなく、師父の出番もまだだったので、程鳳台は安心した。
钮白文が行ってしまうと、程鳳台は商細蕊の隣の席に移って、テーブルの下でこっそり商細蕊の太腿に手を乗せた。商細蕊は脚を揺すったが、程鳳台の手は振り落とされるどころか、上へ上へと上がって来た。商細蕊はため息をついて、「今日はずいぶん遅かったね。どこに行ってたの?」と聞いた。
程鳳台はこれを予想して、準備していた。「商老板のためにゴシップを見つけて来たんだ。あることが范漣に起こった。聞きたいか?」
商細蕊は舞台を見るのを忘れ、興奮で顔を輝かせて、禍いを喜ぶように腰を少し捻って言った。「范漣がどうしたって?言って!」
程鳳台は声を落として言った。「范漣は父親になるんだ」
商細蕊はしばらく愕然として、尋ねた。「でも彼は結婚してないよね。私生児ってこと?母親は誰?」
程鳳台は言った。「こっそり教えてやる。東公民巷の曽小姐だ。君が髪を引っ張ったあの人だよ」
商細蕊は自分の無礼を恥ずかしいとも思わずに言った。「あれはだめだ。なんであんな女が」
程鳳台は驚き、微笑んで言った。「商老板が身分で人を選ぶとは思わなかった」
商細蕊は言った。「あれはよくない。男の前で乳を半分出しているような女はだめだ。小来は身分の低い家の出身だが、小来はいい。良妻賢母だ」
彼の女性に対する態度は未だに古く封建的で、セクシーで奔放な女性を見慣れていない。いつも程鳳台が読んでいる映画雑誌に、胸の開いたパジャマを着たハリウッド女優の写真が載っていると、恥ずかしそうに程鳳台を「ちゃんと学んでいない」と叱り、その「汚いもの」を放り出す。彼の考えでは、妓女でさえこんな衣装を着てはいけない。こんな衣装を着る女は妓女よりも下品だ。だから、彼の曽愛玉に対する印象は、少しもいいところがなかった。
「そういえば一昨年、何(フー)家の坊ちゃんにこんなことがあった。同じ家の少女が息子を産んで、それを隠さなかったものだから、みんなに知れ渡ったんだ。その後、赤ん坊は残って少女は追い出されたんだけど、良家のお嬢さんたちは、もう誰も嫁に来ようとしなかったんだって」商細蕊は楽しそうに言った。「これで范漣も終わりだな」
自分は結婚する気も子供を作る気もないので、他人の人生の一大事が散々なことになって春が過ぎ去り、自分と同じ独り者でいるのを見るのが大好きだった。
程鳳台は商細蕊を理解しているので、自信なさげに低い声で言った。「商老板も分っているだろうけど、子供ができたことは范漣の将来の結婚に大きな影響があるんだ。でも范漣の性格で、女は取っ替え引っ替えだが子供は大事でね。これもひとつの命、血を分けた家族だからな。そうだろう?」
商細蕊は子供をどうするかなどまったく興味がなく、適当に頷いた。
程鳳台はゆっくりと彼の脚の付け根を叩いて言った。「だから、范漣はこの子供をうちで育てて欲しいそうだ。我が家の四番目の子供として」
商細蕊はこの話を聞いて、驚いて色を失った。「は?」と声を上げ、それから大声で「何だって!?」と叫んだ。この声は舞台の銅鑼や太鼓の音をかき消し、座席のみんなが振り向いて声の主を探した。程鳳台の心も恐れ慄いた。これを聞いたら商細蕊の顔が暗雲に覆われるだろうとは思っていたが、こんな大きな雷がついて来るとは思っていなかった。
商細蕊がこれを喜べるはずがない。彼は二奶奶と三人の坊ちゃんと二人の妹、程鳳台の関心と時間を占めている人々が、一夜のうちにまとめて全部消えてくれるのを待ちわびていた。多分この中に范漣も含まれる。彼にはこの世に程鳳台しかいなかった。芝居を除けば程鳳台だけだった。他の親戚や友人は、人というよりも、いい香りのする芋と腐った芋だった。
しかし程鳳台は違う。たくさんの親戚や友人のすべてが人で、必要とされれば必ず応え、愛情を注ぐ。このようにみんなが少しずつ取っていって、商細蕊には少ししか残らない。程鳳台は商細蕊の「すべて」なのに、商細蕊は程鳳台にとって「そのうちの一人」でしかない。不公平だ!
商細蕊は思った。二奶奶と坊ちゃんと妹たちはしょうがない。彼らが知り合う前にすでにいて、程鳳台の一部のようなものだ。それが今、見知らぬものが天から降ってきて、ひとつ追加される。これはどうなのか。これから子供が熱を出したりお腹を壊したり、こどもの日だ保護者会だ、程鳳台はきっと自分を捨てて子供の面倒を見に行ってしまう!子供と一緒にいるのが1年に7、8日だとしても、10年経てば半年か一年になる。どうして一人の野良子のために、程鳳台を半年も一年も失わなければならないのか。こんな損は受け入れられない!
商細蕊は眉間に皺を寄せ、全身を硬くして言った。「だめだ!許さない」
程鳳台は彼の太腿を撫でながら微笑んで言った。「なぜだめなんだ?二奶奶に任せておけばついでに育ててくれるよ」
商細蕊は自分の心の中の小さな帳簿のことを説明できず、険しい顔つきで拒否した。頑なな態度に程鳳台の心にも火がつき、「ただ報告してるだけだ。興奮するな。君に関係ないだろう。君が育てるわけじゃないのに」
これが商細蕊を目覚めさせ、ある計画を思いついた。「分かった。私に子どもを育てさせて。そうしたら許す」
程鳳台は面白がって言った。「君が許さなかったらどうだっていうんだ。君は私の妻か?」
商細蕊は頑固に言い張った。「私に育てさせてくれないなら許さない。私が許さなかったらどうなるか、やってみろ」
程鳳台は商細蕊をまじまじと見て言った。「子どもを手に入れて何をするんだ?」
商細蕊は言った。「あなたがすることは全部する。父と呼ばせる。子供の日を祝う!」
程鳳台はしばらく彼を見つめて、吹き出した。「君はまだ自分で子供の日を祝ってるだろう」
そして黙ってお茶を飲むと言った。
「わかった、そう言うなら、私が引き取るのはやめよう。でも、子どもの伯母が引き取ると言ったら、止めることはできない」
この言葉は、商細蕊を阻んだ。商細蕊は程家での二奶奶の地位を大体知っていた。程鳳台は彼と口喧嘩したり、腹を立てたり人を騙したりするが、家に帰って二奶奶に会うと、彼は恭しく、礼儀正しく、睨む勇気さえない。商細蕊の心の中では、二奶奶は程鳳台の母親のようなもので、程家の主だ。二奶奶を盾にされたら、そこに斬り込むことはできない。
彼は最後にやっとひとつ思いついて言った。
「子どもは二奶奶だけのものだ。あなたのものじゃないから、あなたは子どもと遊ぶことはできない!」
程鳳台は深く頷いて言った。
「こどもの日は君と祝うよ」
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