2023年5月5日金曜日

77章

 「今日、程の二旦那のボックスに座ってる人は誰?」と商細蕊は楽屋に向かって聞いた。


商細蕊は3年間の程鳳台との付き合いで、舞台で何が起ころうと、どんなに芝居に集中していようと、程鳳台のボックスを最初に見るのが習慣になっていた。そこに彼が座っているのを見ると、落ち着いて歌えるのだった。


今日そこを見ると、二人の女が座っていた。


小来は、彼に人前でこのことを訊いて欲しくなかったので、急須で彼の口を塞いで話を遮った。商細蕊はお茶を何口か飲んで、また聞いた。「二旦那は?今日は来なかったの?」


沅蘭が来て商細蕊の肩に手を乗せ、耳元で何やら囁くと、商細蕊は目を輝かせて嬉しそうに叫んだ。「ほんとに!彼女が来たんだ!」よく見ようとすぐに幕の後ろに走って行って幕を持ち上げた。


商細蕊は程鳳台の妻に興味津々だった。彼と二奶奶は長い間お互いの名前は知っていたが、お互いの姿を見たことはなかった。覗いて見ると、横を向いて四姨太太(程鳳台の父親の側室)と話しているのが見えた。いつも程鳳台が話していたので、一目でどちらが二奶奶か分かった。


二奶奶は薄暗い灯りの中に座っていて、顔立ちが魅力的かどうかはよく分からない。肌が白く、優美で、衣裳の金色の絹が暗い光を映し出していた。


彼女の髪型や衣裳はどれも商細蕊の好みだった。商細蕊は現代の女性が胸や尻の曲線を露わにしたり、暑い時に腕や脚をむき出しにするのが好きではない。頭にくっつくようなパーマも好きではない。やはり二奶奶の身なりの方が美しいと思った。


それ以上の感想は間に合わず、気を引き締めて舞台に上がらなければならなかった。鄒氏会曹の一節を歌い終わった時には、二奶奶は途中で席を立って既にいなくなっていた。顧マネージャーが、ドアを出て車に乗るまで送って行った。


商細蕊のこの後の出番は一場だけで、登場して30秒で終わる。彼が重要な部分を歌い終わった後で席を立ったということは、わざわざ彼を見に来たのだろう。商細蕊はこのことを理解したと思うと、心の中に、善とも悪とも言えない得意な気持ちが湧き上がってきた。


芝居が終わると、雷双や他の役者たちは早々に化粧を落として、熱いタオルを顔に乗せて居眠りしていた。商細蕊は今日は興奮しすぎていて、衣裳は脱いだが化粧は落とさずにいた。


水雲楼の女役者たちはまだ二奶奶について話していて、年齢から今日の服装まで、何度も繰り返した。彼女の嫁荷がどれほどで、どんなに目立ったか。商細蕊は今までに程鳳台の身の上について聞こうと考えたことがなかったが、今こうして耳に入ってきたので、まるで自分とはまったく関係ないことのように、深く考えずに面白おかしく聞いた。


二奶奶の持参金の話になり、噂では驚くべき額だった。この金の下で、程鳳台は生計のために、取引として二奶奶と結婚し、本当の愛はないのだという思いを強くした。同時に、持参金目当てで妻を娶るとは、本当に役立たずの小白顔(ヒモ)だとも思った。自分よりも強い力を持つ者に、一生おべっかを使って生きるのだ。



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